肝臓内科HEPATOLOGY

肝臓の主な働きは、①摂取した食べ物を栄養素として身体が吸収できるように変化させる(例:ぶどう糖をグリコーゲンに変え貯える。アミノ酸からタンパク質や繊維素をつくる)、②有害物質を解毒・分解する(例:アルコールやタバコに含まれるニコチンを中和する。運動すると血液中に増加する乳酸をグリコーゲンに変化させる)、③食物の消化に必要な胆汁を合成し、消化管へ分泌することです。
肝臓の働きが低下すると、例えば急性肝炎では、皮膚や目が黄色くなる(黄疸)、尿の色が濃くなる、風邪に似た倦怠感や悪寒、吐き気などの症状を伴うことが多いですが、慢性肝炎では症状がない場合が大半です。
肝炎から肝硬変へ進行すると、だるさ・食欲がない、身体のむくみ(浮腫)、おなかが張る(腹水がたまる)、皮膚や目が黄色くなる(黄疸)などの症状がみられますが、これらの症状は、かなり進行した状態にならないと見られないことが多いです。

「沈黙の臓器」と呼ばれる肝臓は、多少ダメージを受けても黙々と仕事をこなし、肝硬変でない場合は全体の70%程度を切除しても、大きさと機能はおおむね元に戻ることができます。そのため、ダメージが継続していても気づかないことがあり、症状が見られた際には病状が悪化していることも少なくありません。

このような症状はありませんか
  • 黄疸が出た
  • お酒をよく飲む
  • 食欲不振が続いている
  • 疲れが取れない
  • 肝臓数値異常を指摘された
  • 肝臓の健康状態を知りたい

肝臓内科で診療する疾患例

  • 肝硬変
  • アルコール性肝疾患
  • 脂肪肝
  • 慢性肝炎
  • ウイルス性肝炎
  • 肝がん
  • 胆石症
  • 原発性胆汁性肝硬変
  • 肝血管腫
肝炎
急性肝炎

肝炎とは、肝細胞が様々な原因で変性・壊死を起こし、炎症が生じる状態を指します。原因としては、ウイルス・アルコール・脂肪肝・薬剤・自己免疫などがあります。肝炎ウイルスはB型・C型の他に、A型・D型・E型の計5種類が確認されています。

A型・E型肝炎ウイルスは主に食べ物を介して感染し、B型・C型・D型肝炎ウイルスは主に血液を介して感染します。中でもB型・C型肝炎ウイルスは、感染すると慢性化することもあります。
一部の方では、黄疸・食欲不振・吐き気・嘔吐・全身の倦怠感・発熱などの症状を伴うこともありますが、自覚症状を認めないことも少なくありません。
重症・劇症肝炎の場合は、命にかかわる場合や肝臓移植が必要となることもあり、早期診断と治療が重要です。

脂肪肝(NAFLD/NASH・MAFLD)
脂肪肝(NAFLD/NASH・MAFLD)

肝臓は、余った脂肪を中性脂肪やグリコーゲンとして蓄える働きがあります。しかし、脂肪の過剰摂取が続くと肝細胞にも影響が現れます。重量として肝細胞全体の5%以上が中性脂肪となった状態、または肝細胞の30%以上に脂肪滴が認められる状態を「脂肪肝」といいます。医療用語では「非アルコール性脂肪性肝障害(NAFLD)」「代謝異常に関連する脂肪性肝疾患(MASLD)」と呼ばれています。脂肪肝の診断は、腹部超音波検査などで可能です。日本における一般成人健康診断では、男性で40%、女性で20%の方にNAFLDが認められると報告されています。脂肪肝は有名ですが、実はNAFLDと診断されたケースのうち10%~20%は徐々に悪化して肝硬変に進行し、中には肝がんを発症することも知られています。MASLDは2020年にアメリカ・ヨーロッパで提唱された新しい疾患概念で、メタボリックシンドロームを基盤病態としています。海外および日本の研究では、NAFLDと診断された方の96%~98%がMASLDと診断が一致すると報告されています。NAFLD(MASLD)の治療は食事運動療法が基本となりますが、継続することが難しい方も多いと思います。

当院では、お一人おひとりの環境や背景を考慮し、生活習慣の改善を図り、定期的に血液検査や超音波検査を行い、脂肪肝の治療に寄り添います。また、糖尿病薬や降圧剤、脂質異常症に対する薬剤の一部が炎症を抑え、肝機能の改善も得られる可能性も報告されています。それらの疾患を合併する場合には、NAFLDへの効果も踏まえて、治療を提案いたします。
検診や人間ドックなどで脂肪肝を指摘された方は、お気軽にご相談ください。

アルコール性肝疾患
アルコール性肝疾患

アルコール性肝障害は、常習的な飲酒者において長期にわたる過剰な飲酒が原因と考えられる疾患です。
純エタノールに換算して1日あたり60g以上の飲酒を「過剰な飲酒」と呼びますが、個々の差異があり、女性は男性より少ない飲酒量で肝障害を起こしやすいと考えられています。
適度な飲酒は1日平均20g程度といわれています。過度な飲酒をすると、脂肪が十分に燃焼されず、肝臓に脂肪が蓄積されます。
常習飲酒者の90%が脂肪肝を患っており、飲酒の継続により、そのうち10%~20%がアルコール性肝炎へ進行します。日本人における患者数はアルコール性肝疾患で33,000人、アルコール性肝炎は18,000人と推計されています(2011年厚生労働省調査)。また、アルコールが関わる死亡者数は毎年35,000人(2009年厚生労働省調査)にもなります。

アルコールが原因となる肝障害について、禁酒をすることだけで約30%の方の肝臓は正常化するといわれていますが、飲酒を継続された場合には重症化(重症型アルコール性肝炎)する可能性があり、また約10%~15%の方は肝硬変を発症します。肝硬変は、10年生存率が50%と、命に関わる疾患であり、重症型アルコール性肝炎については、治療を受けられても、多くの方が1ヵ月以内に亡くなるといわれています。

症状

アルコール性肝障害・肝炎は、初期にはほとんど症状を認めません。
進行すると、倦怠感・食欲低下・発熱・右上腹部の痛み・黄疸などが現れ、深刻な場合には腎不全・消化管出血・肝性脳症(脳の機能低下)といった重い合併症がみられます。

診断

問診ではアルコールの摂取量の確認を行い、検査では超音波診断装置や血液検査などを実施します。
血液検査ではALT(GPT)・AST(GOT)・γ-GTPなどが高値を示すことが多く、また肝炎を引き起こす他の原因(B型肝炎やC型肝炎、自己免疫性肝炎など)を鑑別するための項目を検査することもあります。

治療

アルコール性肝障害の最善の治療法は、禁酒と食事療法です。肝臓を休ませ、バランスの良い食事を取ります。
禁酒や飲酒量の減少が難しい場合には、減酒薬を処方することもあります。
アルコール依存症(近年アメリカを中心に、アルコール使用障害とも呼ばれるようになりました)と診断された場合、飲酒量を減らす「減酒・節酒」や一定期間飲酒を禁止する「禁酒」ではなく、一切の飲酒を断つ「断酒」が求められます。しかし、自身の意思だけで断酒するのは難しいケースが多く、精神科医や専門の医療機関との協力が必要となります。
アルコール性肝硬変を発症しても断酒に成功すれば、5年後の生存率は35%から88%まで改善するといわれており、決して諦めずに地道な努力を続けることが大切です。

お酒との付き合い方

お酒との付き合い方

前に述べたように体調やアルコール性肝疾患の問題によりお酒を止めなければならない場合もありますが、お酒とうまく付き合うことで、日常生活にメリハリが出たり、ご家族・ご友人との大切な時間をリラックスして楽しめたりと、良い側面を残しながら健康を維持するメリットもあります。お一人おひとりの体質・生活習慣に合わせたアルコール摂取量・頻度を設定し、総合的に健康を管理することのお手伝いをさせていただきますので、お気軽にお声がけください。